ダークパターンとは?ウェブ上で使われる悪質な5つの手法と規制事例
デジマトレンド公開日:2024年9月11日 更新日:2024年9月12日
ダークパターンとは、ユーザーにとって不利な決定に誘導するために、巧妙に設計されたウェブサイトのデザインやUI/UXのことです。
ウェブサイトの内容を分かりづらくしたり、心理操作や認知バイアスを利用することで、ユーザーに意図しない行動を取らせることを指します。
具体的には、退会手続きが非常に複雑に設計されていたり、必要以上に定期購読を促す仕組みが隠されていることが多いです。
ダークパターンは徐々に社会問題になりつつあり、2024年4月10日に消費者庁は株式会社オルリンクス製薬に対して行政処分を実施しました。
株式会社オルリンクス製薬は、EC支援を行う「売れるネット広告社」の子会社であり、「売れるネット広告社」もまた、2022年に配信された動画の内容が原因でネット上で炎上して話題になりました。
今回はそのダークパターンの概要と、具体的な手法、倫理的な問題点を整理していきます。
目次
ダークパターンとは
冒頭に述べた通り、ダークパターンとはユーザーにとって不利な決定に誘導するためのウェブサイト上のテクニックの総称です。
「売れるネット広告社」が炎上した原因となった動画内では以下のような発言がされていました。
引用元:【D2C広告の達人に聞く】年商5億未満の通販会社がまずすべきこと
この発言がスタートアップメディアSUANによって取り上げられ、ネット上で炎上することにつながりました。
しかし現在の特定商取引法においては、このような解約導線に関する規制はなく、法律上の問題は特にありません。
にも関わらず炎上してしまった理由として、「倫理観」というキーワードが挙げられると思います。
ダークパターンが社会的に問題視されている理由は、法律上問題ないけど倫理的に問題があるからではないでしょうか。
ダークパターンが使われる理由
ダークパターンを使う理由は、主に売上や利益を最大化するためです。
「売れるネット広告社」の事例だけでなく、無料プランの期間が終わると自動的に有料プランに切り替わるサービスや、会員登録なしで予約できると思ったら、フォームの最後の最後で会員登録を強いるサービスなど、世の中にはダークパターンと呼べるものが数え切れないほど溢れています。
例えば自動的に有料プランに移行するサービスであれば、ユーザーが気づかないうちに課金させることができ、フォームの一番最後に会員登録導線があるサービスは、フォームの離脱率を下げる効果が期待できます。
しかしながら先述の通り、日本においてはこれらのウェブデザイン、UI/UXは法律上問題ないとされているため、実態として多くのサービスで利用されています。
ダークパターンの規制状況
冒頭に紹介した、消費者庁の株式会社オルリンクス製薬に対する行政処分は、特定商取引法第14条第1項への抵触が起因しています。
特定商取引法第14条第1項は、以下の内容になっています。
引用元:特定商取引法第14条第1項
このことから株式会社オルリンクス製薬は、ダークパターンを超えて、解約を拒否又は不当に遅延させていたことが分かります。
しかしながらこの条文では「分かりづらい解約導線」等のダークパターンに対しては規制ができないとも言えます。
一方で、国際的にはダークパターンに対する規制は始まっています。
具体的には2024年3月27日、大手ECモールAmazonのヨーロッパ本社であるAmazon EU Sarlに対し、ポーランド政府は約12億円の罰金を課すことを発表しました。
ポーランドの競争・消費者保護庁によると、Amazonには以下のような問題があったとされています。
- 商品の売買契約が代金の受領時ではなく、商品の発送の通知時に設定されており、且つそれをユーザーに分かりやすく明示していないこと
- 「残り◯点」「◯時間以内にご注文してください」とユーザーに圧力をかけていること
- そのうえで、実際には在庫切れで商品が予定日に届かないケースがあること
またAmazonはアメリカ連邦取引委員会からも提訴を受けており、徐々にダークパターンに対する規制が始まっていることがうかがえます。
ダークパターンの具体的な手法
すでにいくつかのダークパターンの手法を紹介しましたが、あらためてどのようなダークパターンがあるのか見ていきましょう。
代表的なダークパターンの種類と、その具体的な手法について紹介します。
おとり商法(ベイト・アンド・スイッチ)
おとり商法は、ユーザーにサービスや商品の魅力的な情報を提供しますが、実際にはそのサービスや商品を提供せず、別のものを購入させる手法です。
典型的な例として、セール品を大々的に宣伝して集客したあと、在庫切れなどを理由に別の商品や、より高額な商品を勧めるケースが挙げられます。
意図せずそのようになってしまった可能性もあるため、定期的にそのサイトに訪れ、”ずっと在庫切れしている”ことが分かれば、それがおとり商法であると確信できますが、初めてそのサイトに訪れた場合、それをおとり商法かどうかを見抜くことは難しいと思います。
ローチモーテル
ローチモーテルは、ユーザーが一度サービスに加入・登録すると、簡単には解約できないようにする手法です。
日本では「ゴキブリホイホイ」と揶揄されるケースもあります。
行政処分を受けた株式会社オルリンクス製薬も、まさにそのようなウェブサイトだったのではないでしょうか。
他にも、入会は数クリックでできるのに、解約する際は別のプランへの乗り換えを提案してきたり、アンケートに答えないと先に進めないなどもローチモーテルの典型的なパターンです。
偽のカウントダウン
偽のカウントダウンは、希少性バイアスを利用して、ユーザーに時間というプレッシャーをかけ、焦らせて購入や契約をさせる手法です。
希少性バイアスとは、希少性が高くなると、その商品の主観的な価値が増すことです。
「残りわずか」や「あと1時間でセール終了」という文言は、希少性バイアスを使った有効的な訴求方法である一方、それが本当なのか否かを検証する手段は消費者は持ち合わせていません。
「本当か?」と疑って、1時間待ってみたら、本当にセールが終わってしまったらショックですよね。
なので偽のカウントダウンも、おとり商法と同様に見抜くことが難しいダークパターンです。
このようなダークパターンは、旅行サイトやショッピングサイトでよく見られ、焦燥感を抱かせることで冷静な判断を妨げます。
コンファームシェイミング
コンファームシェイミングは、ユーザーが行動を拒否する際に、罪悪感を感じさせるようなメッセージを表示する手法です。
例えばサブスクリプションをキャンセルしようとしたときに、「賢明な選択をしませんか?」「この素晴らしいオファーを逃しますか?」といった、ユーザーの感情にプレッシャーを与えるようなメッセージを表示します。
コンファームシェイミングは心理的な負担をかけ、不本意な決定を下すように仕向けるものですが、これまで紹介したダークパターンの中では非常に見抜きやすいと思います。
このようなメッセージを出す企業やサービスは、ユーザーの満足度よりも自社の利益を最優先としていると捉えられるので、羞恥心や罪悪感を感じずに、思い切って解約しましょう。
隠れたコスト
隠れたコストは、購入プロセスの最終段階で突然追加料金が表示されるものです。
ユーザーは最初に提示された金額よりも多く支払わなければならないことが分かります。
例えば現在では景品表示法違反にあたりますが、税抜表示が典型的な例といえるでしょう。
景品表示法の変遷はややこしくなるので割愛しますが、2021年4月1日以降、商品の販売、役務の提供を行う時は消費税を含めた価格を表示する必要があります。
更に消費者庁では、税込・税抜表示を併記した場合、明瞭な表示かどうかを判断するための3要素を示しています。
- 文字の大きさ(税込価格が著しく小さく表示されていないか)
- 文字間・行間余白(余白の大きさなどから、税込価格が見づらくないか)
- コントラスト(背景や文字の色の影響で、税込価格が見づらくないか)
このような3要素を示しているにも関わらず、かなりグレーな表現をしているウェブサイトは数多く存在しているため、注意を払う必要があります。
ダークパターンと倫理観
最後に、このダークパターンに関する私見を述べさせていただきます。
かなり拡大解釈している部分もあると思うので、そのことを踏まえて読んでいただければと思います。
ダークパターンが引き起こす社会問題
ダークパターンはある種、ユーザーを騙すような行為であるため、一部のユーザーからは嫌悪感を抱かれることも想定できます。
そのためダークパターンの悪用・多用は、ユーザー離れを引き起こす原因にもなるといえます。
しかしながら先ほど紹介したAmazonの例など、人々の生活にとって欠かせなくなってきたサービスがダークパターンを利用しているとなると、ダークパターンに嫌悪感を示しつつも、そのサービスを使わざるを得ない状況になってしまうと思います。
これはある種、ダークパターンを用いない健全なサービスが、Amazonやその他のインフラ的立ち位置にまで登りつめたサービスと、対等に競争ができなくなることを意味するのではないでしょうか。
自由競争が経済成長につながるのであれば、ダークパターンの氾濫は企業と消費者間の問題だけでなく、その国の経済成長や技術革新に影響しうる問題に発展する可能性も秘めているのではないでしょうか。
倫理観と資本主義経済
冒頭で紹介した「売れるネット広告社」は、その手法が倫理観・道徳観に反するため炎上したと紹介しました。
一方で「売れるネット広告社」は、2023年10月23日に東京証券取引所グロース市場へ上場を果たしています。
今日の資本主義経済において、上場は1つのゴールであり通過点だと思います。
もちろん「売れるネット広告社」は、ダークパターンだけのおかげで上場できたとは思いません。それ以外にも様々な努力や経営戦略があったことは間違いありません。
問題の本質は企業がダークパターンを使う・使わないではなく、そのような経済活動を事実上認めている現状だと思います。
国際的には問題視され始めていますが、日本国内でダークパターンの議論が進んでいないことは非常に由々しき事態だと感じています。
ダークパターンのまとめ
ダークパターンは、私たちが日常的に利用するWebサービスやアプリに潜んでおり、知らないうちに影響を受けている可能性があります。
中には見抜きやすいダークパターンもありますが、見抜いても拒否できないローチモーテル(ゴキブリホイホイ)や、見抜きづらいダークパターンもあります。
私たち消費者・ユーザーにとって今できることは、焦らず、冷静になって、注意深くサービスを体験する以外ありません。
強いて言うなら、このような社会問題になりつつあるダークパターンの認知を広げ、ネットリテラシーの水準を高めることくらいです。
私たちデジマナビは、なるべくユーザーに誤解を与えないようなウェブサービス作りに励んでいるので、もし「ここが分かりづらい」「こうしてほしい」等のご意見・ご要望があればお気軽にお問い合わせフォームからご連絡いただければと思っています。